昔よく読んでいた、岩井志麻子著「ぼっけえ、きょうてえ」。
明治時代の岡山を舞台にした、淫猥でグロテスクで陰鬱な気分になる短編が4編入っています。
時代の闇・人の闇が垣間見え、ひたひたとした怖さが静かに迫ってくる短編集です。
「ぼっけえ、きょうてえ」とは、岡山地方の方言で、「とても、怖い」の意。
どの話も、物語のほぼ全編にわたり、閉鎖されたムラ社会の陰鬱で残酷な情景を描写していて、とても暗くじめじめした洞窟を延々と歩いている気分になります。
そうして暗い話を読み進めて辿り着いた洞窟の出口では、その物語の核となる秘密が暴露され、パーっと目の前が開け、閉鎖された物語から解放されます。
読後は、「ぼっけえ、きょうてえ」とつぶやきながら、今たどってきた洞窟の穴を振り返り見る。
そんな感じの作品4編、表題作の「ぼっけえ、きょうてえ」、「密告函(みっこくばこ)」、「あまぞわい」、「依って件(くだん)の如し」のあらすじと一言感想を簡単にネタバレなしで紹介します。
ぼっけえ、きょうてえ
あらすじ
明治時代の岡山の遊郭で、醜い女郎が眠れない客に語る「身の上話」。
この作品は女郎の一人語りで綴られています。
暗く、えぐい過去、そして、女郎に隠された秘密が、女郎の口から語られます。
一言感想
夜寝る前に布団の中で読むと、まるで自分がその眠れない客になっているような気分に。
淫靡で残酷な身の上話ですが、異世界の夢でも見ているような不思議な読後感に包まれます。
密告函(みっこくばこ)
あらすじ
虎列刺(コレラ)病が流行りだした頃。
感染者をいち早く隔離施設に送るため、村役場に設置された密告函には、私怨で密告された者の名も。
役人の主人公は投書された「祈祷師の娘」に会いに行き、逢瀬を重ねていってしまいます。
一言感想
何より怖いのは、主人公の妻。
ラストが本当に怖いです。
この短編集の中でいちばん好き。
あまぞわい
あらすじ
瀬戸内海の漁村が舞台。
岡山の料理屋で働いていた酌婦が、漁村に嫁いだものの、村に馴染めず、夫からは暴力を振るわれる日々。
ある日、村の網元の息子に出会い、心惹かれていくようになります。
一言感想
焼け付くような砂浜や潮の香りなどの情景が浮かび、五感を刺激する作品です。
そんなに好きな話ではありません。
依って件(くだん)の如し
あらすじ
牛の頭と人の体を持つ件(くだん)。
良くないときに生まれて良くないことを告げる化け物「件」が見える、村八分の幼い妹と、一回り年の離れた兄の話です。
一言感想
幼い妹は、穢れた土地ツキノワや狭い家の竃の横に「件」が見えます。
その正体が最後にわかるのですが、その淫猥さと境遇のエグさを想像すると、むかつきがこみ上げてきます。
以上で、ぼっけえ、きょうてえの感想を終わります。
近親相姦や堕胎、奇形、その他、暴力表現がありますので、苦手な方にはオススメできません。
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